TOPへメニューへ


イリスの大切な……

仲間や、スクウィーにチョコレートを渡した帰り道。

『イリス。わざわざあの盗賊にやることはなかったんじゃないのか?』

珍しくクレースが不満そうにイリスに話しかける。
「そうね……スクウィーさんをあんなに想ってる人がいたなんて」
『それは別としてだ。奴のことを嫌っていたはずだろう』
そうイリスに聞いてくる彼はいつになく憮然とした様子。
「もう、シオンちゃんが頑張らなくても済んでるから。今はそんなに嫌いでもないわ」

クレースはそれを聞きながら何故か落ち着かないでいた。
昨日までは持ち主が嫌っているから同じく気に入らなかった。しかし今では持ち主に抱きついてきたことが気に入らない。
自分のテリトリーによそ者を入れたくない、独占欲に近い気持ちだった。
彼自身はそれに気がついていないために余計に苛立っているのだが。

「それに、このイベントを教えてもらったから」
そう言って、イリスは男子寮の一室を見上げる。
「一番大事な人ってそういう意味じゃないかもしれない、でも、そうかもしれない」
その曖昧な気持ちの分だけ、他のよりも少し大きめに作ったチョコレートを渡した。
「最初の頃と同じだと思っていたのに、いつの間にか……ずいぶんかっこよくなってたわ。ちょっと、寂しい気もするけれど」
寮の番犬になりつつある白い犬の横を通る。

「クレースは、そういうところ、わたしよりも見てきたのよね」
『いや、今まであまり気にしたことはなかった』
笛で騒音を出し、飛行の魔法にはしゃいでいた頃とは違うと、彼も仲間の変わりように気づく。
『言われてみれば、確かに……変われば変わるものだ』



「明日は、またダンジョンに行くんでしょ? 早めに休んでおくわ」
部屋に戻ったイリスが明日の予定を話し出す。
『疲れたのか?』
休む、というイリスの言葉に、クレースは少し体調を気にする。
寝床につくには普段よりもだいぶ早い時間だ。
「そうじゃないの。ただちょっと……そういう気分だから」
はっきりしない返事だったがその声はやけに楽しそうで、具合が悪いわけではないらしい。
クレースが納得してみせると、パチン、と音がして彼女からの感覚が途切れる。

次の朝まで彼が彼女の腕に戻ることはなかった。



翌日、クレースは迷宮へ行く準備をしていた。
杖にローブ、ポーション類を確認する。
「……ん?」
ポーションやアクセサリを入れる袋に見慣れないものが入っている。
紙に包まれた小さな何か。
「包みは見覚えがあるが……」
いつかイリスが雑貨屋で買った、柔らかな色調の花柄の紙だ。
開けてみる。

「イリス……!」
紙の包みは、手紙になっていた。

――1日遅れだけれど……
  少しだけお酒の風味をつけてみたの。
  昨日作った時のとは違う味だから。
  いつもありがとう。これからもずっと一緒にいてね。

そして、包みの中には――


TOPへメニューへ

2008.11.07