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ツヅキカラ〜第3章〜

リンネが電話をかけなおすと。彼女が口を開くより早く、ジョードの声が電話口から飛び出してきた。

「今度こそリンネかッ!? リンネなんだな? 大丈夫だったのかッ!?」
「ジョ…ジョードさん」
ジョードの剣幕に珍しくリンネが押されている。
「あたしなら大丈夫です。一回死んだけどシセルが助けてくれたから」
「…………。リンネ…それは大丈夫じゃない」

電話の向こうで深いため息をつく気配が伝わってきた。
リンネのあまりにも気楽な言葉に、逆に冷静になってしまったらしい。

『もうすこし…シリアスな言い方はないものだろうか?』
「どう言っても同じだと思うケド。ジョードさん、知ってるワケでしょ、シセルのチカラのこと」
『そういうモンダイではないと思うが…』
「…リンネ、もう少し慎重にだなあ…」
死者の声と、生者の声は同時に女刑事に呆れ返る。

「…それで。キミを狙ったハンニンは今どうなってる?」
「あのキョーアク犯なら、今。グルグルジムにくくりつけてあります。モチロン手錠で!」

気絶したまま遊具と仲良くしている殺し屋を横目で見ながら、女刑事は得意げに言い放った。
犯人を捕まえたことで高揚しているのだろう、妙に生き生きとしている。
……先ほどまで死んでいたとは思えないほどに。

(買い物に出かけるのにどうしてそんなモノを…)
「や。刑事のたしなみってヤツ? ホラ、いつ何が起こるかわからないし!」



「それで、リンネ。そいつの連行…は一人ではムズカシイか。誰か空いてるヤツを向かわせるから待っていてくれ。オレが行けたらいいんだが…そうもいかなくなった」
「…なにか、あったんですか?」
リンネの顔が引き締まる。言葉の端から、ただごとではない雰囲気を感じ取ったようだ。
「…ああ、署からちょっと、な」
二人が殺し屋を相手にしているその短い間に、ジョードの方には警察から呼び出しがあったと言う。
「ジョードさん…そんなタイヘンな時なのに。デンワ、待っててくれたんですね」
緊急事態にもかかわらず、彼はリンネを気にして待っていたのだった。

「じゃあ、オレは署へ向かう。ああ、それと…これは見かけたらでいいんだが」
ジョードが呼び出された事件と関係があるのだろう。少しでも手がかりが欲しいと、彼はリンネに頼みごとをする。
「“赤いトランク”を持ったアヤシイ人物を見かけたら、教えてくれないか」
「赤い…トランク…?」
「珍しいし、目立つと思うから…ん? どうした?」

「…ジョードさん…。“赤いトランク”って…それ…あたしが届けた忘れ物!」
「…なんだって!」

リンネはまたしても、知らず知らずのうちに事件に関わっていたようだ。
「そういえば。あたしを狙ってたゴクアク犯…“目撃者は消す”とか何とか、言っていたような。4分前のときに」
……それも、あまりよくない形で。

「なんでそんな重要なコトをダマってたんだ…」
ジョードの、今夜二回目のため息。
「こうなった以上、キミも無関係ではない。いいか…リンネ、よく聞くんだ」
極秘だからもらさないように……と前置きをして。彼は話し始めた。
彼女の性格、そして置かれた状況から、この事件について知らないのはかえって危険と、ベテランの刑事は判断したのだろう。
「“赤いトランク”だが…それは“ある場所”が何者かに襲撃されたときに、監視カメラに映っていたモノなんだ」

“ある場所”とは、国の機密情報を管理する重要施設だと、ジョードは説明を続ける。
「…一時間ほど前。そこの職員たちが倒れているところを、警備員に発見された」
今現在、機密情報を狙った事件として、特別捜査班を中心に捜査が始まっているそうだ。

「そこでオレにも、お呼びがかかった…というワケさ。情報を盗まれていたら一刻を争うからな」
「そんなコトが…。ブジだったんですか? 職員のヒト」
「幸い、イノチに別状はないそうだ。今、何があったか話を聞いている」
目を覚ました職員から事情を聞いているが、詳しいことはいまだわかっていないらしい。

『ナルホド…。大事件のようだが、ダレも死んでないのはなによりだ』
死者が出ていないのは不幸中の幸いと、ずっと聞き耳を立てていた幽霊は胸をなでおろす。
『…ただ一人。リンネをのぞいて、のハナシだが』

シセルの独り言が聞こえているのかいないのか。
「ジョードさん。あたしも…捜査に協力させてください」

その彼女は、今まさに“大事件”に首を突っ込もうとしていた。

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2012.07.20