ゴミ捨て場の管理室は、人の気配もなく明かりもついていなかった。
本日は管理人は留守のようだ。
その扉の鍵が、カチャリ、と小さな金属音を立てて“ひとりでに”開かれる。
「まっくら…ってあたりまえだよね。ダレもいないんだもん」
部屋に入ってきたのは赤毛の女刑事。手探りでスイッチを探し、明かりをつける。
『勝手に入ってしまったが…これでよかったのだろうか?』
鍵を開けたのはもちろん、リンネのペンライトにとりついている幽霊だ。
『あたしとしても気が引けるんだけど…こういうときだから、ね』
(こういうときだから…なんだ?)
二度も命の危険にさらされたリンネは屋根と明かり、そして電話のある場所を求めてここに来たのだった。
誰もいなかったため、無断で侵入することになってしまったが。
「ううん…デンワがあるのは助かるんだけど。なんて話せばいいかな。…予定、変わっちゃったし」
リンネはビューティーが落としていったカバンを取り出す。
ビューティーと直接対決したおかげで、リンネの“電話番号だけ教えて応援を呼ぶ”という計画は大幅に狂ってしまった。
カバンから出てきたものは、やや厚みのある四角い板。
リンネの手のひらより少し大きいそれは、金属質な銀色をしている。
『…そもそも。なんだろうね、コレ』
『平たい“おるごーる”にも見えるような…。チカラづくで開ければヒラク…かもしれない』
『…それ、オルゴールって言わないと思うな、あたし。だいたい、オルゴールは開くものじゃないし』
物知らずな幽霊に冷静な指摘をしたのは。《更新前》にふたの開かない木箱をオルゴールと信じていた女刑事。
『コレが事件にカンケーあるかどうか、聞きたいってのに。ホーコクもできないなんて。まいったなあ…』
『…マッタク。ヤッカイなものだな』
警察に電話をかけたところで、拾った物体の報告も、向こうの捜査の進展も聞けない。
“たぶん超・重要アイテム”を手に入れたリンネの興奮も、一味落ちるというものである。
『ホントに。どこまでもジャマしてくれちゃって。盗聴器のヤツ…!』
『“とうちょうき”…どこかで聞いたことがあるような…』
(なんだっけ…)
『あれ? シセル、知らなかったっけ、“盗聴器”。こっそり盗み聞きするキカイのコトよ』
『そ、そうなのか…。…私の知っているものとは少しチガウようだ』
シセルの疑問は本人も知らぬうちに。この行き詰った状況にほんの少し、穴を開けることになる。
2012.08.31