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ツヅキカラ〜最終章〜

ソノ死ヨリ
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 PM 9:23 管理棟・管理人室

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4 分 前



4分前の世界では。侵入者とリンネが対峙していた。
侵入者は、手に収まる大きさの銃を持ち、リンネに狙いをつけている。

「いつもの相棒でアイサツできないのはザンネンだ…ショットガンじゃあ“例のモノ”まで巻き込んじまうんでね」

“ターゲット”の前でやたら饒舌に喋るその男は。やはりシセルがよく知る人物だった。

「ただ。どんなエモノでも…オレが届けるものは変わらない。アンタの“死”だ」
「ジョーダンじゃないわ。最後まで。抵抗は、させてもらうんだか…ら!」
侵入者に向かって何かを投げつけるリンネ。
それは乾いた音を立てて、侵入者の足元に転がった。
「これが。アンタの抵抗か?」
「…そうよ。これがあたしの…切り札」

彼女が投げたのは、今夜、シセルがとりついていたペンライト。
ピストルで狙いをつけられている今、彼女の助けにはなりそうになかった。

「アンタの切り札とやら…何のイミもなかったようだな」
「それは…どうかしら。“今”はイミがなくても…いつか、必ずあたしの助けになる。…ゼッタイにね!」
「ここで死ぬアンタに…“いつか”は、ない」

侵入者のその言葉とともに。数発の銃声がとどろき、リンネの《死の4分間》は幕を閉じた。



『これは…どうやら。私は彼女の信頼にこたえなくてはいけないようだ…』
《死の4分前》を確認したシセルはサングラスを持ち上げ、口に薄く笑みを浮かべる。

『イノチ尽きる時まで“相棒”を信じる、このあたしの心意気。感動的よねー』
いつの間にか。目を覚ましたリンネがシセルの独り言に相槌を打っていた。
『…キミが自分で言うと。その感動もややウスれるワケだが』
『細かいこと言わないの! さ、もう一度戻ってはじめましょうよ!』

ヤレヤレ……と、シセルは今夜何度目かのため息をつく。
(リンネといるとどうも口癖になってしまうな…)
だが。彼の口元は笑みを浮かべたままだ。《死》の瞬間まで、自分を信じた彼女を思うと悪くない気分だった。

『さて。この状況からキミの《死》を回避する方法だが…まずジーゴの動きを止めないといけないな』
『ジーゴ?』
『目の前にいる殺し屋の名前がそうだったハズだ…たぶん』

(しかし…どうにも《コア》が足りない)
今、ジーゴは入り口付近、リンネは部屋の奥に立っている。
リンネの“亡きがら”付近にはキャスターと、机の上の細々した“何かの装置”しかない。
そしてジーゴとリンネの間には《コア》のない本棚があるのみ。死者の《道》がつながっていないのだ。

《道》を探して悩んでいたシセルの目の前で。4分前のリンネが動いた。
「ジョーダンじゃないわ。最後まで。抵抗は、させてもらうんだか…ら!」

ひとつの《コア》がジーゴに向かって飛んでいく。

『これは…!』
とっさに《コア》にとりついたシセルは驚きと感心の入り混じった声を漏らす。

《コア》の正体はリンネが投げつけたペンライトだった。
回避できない《死》を目の当たりにしながらも。彼女は次の布石を用意していた。
あの時、彼女は今助かるためではなく、4分前のために。シセルがたどる《道》を作っていたのだ。

『あたしもやるもんでしょ。あとは…キタイしてるからね、シセル!』
『…なかなかにプレッシャー、だが…。やってみよう』

(…とはいえ。どうしたものかな)
周囲に操って役に立ちそうなものが見当たらない。
『一応。殺し屋の持っているピストルも《アヤツル》ことはできるようだが…』
『そんなコトしたらあたしに当たっちゃうじゃない!』
(マイッタな…)
あたりの《コア》に移動しながら、シセルは何か動かせそうなものを探す。

『コイツはまだ。動かしたことがなかったな』
そう言って、彼が操ったものは、管理人室の電気のスイッチ。
『ちょ、ちょっと! ナニやってるの!』
「きゃっ、ナニ!? なんなのよ!」

管理人室の明かりが消え、“タマシイ”のリンネと“生きている”リンネが悲鳴をあげた。
薄闇の中、手探りで外に出ようとする彼女に、殺し屋が近づいていく。
ジーゴの手元にギラリと金属質な光が走ると同時に――リンネの命は尽きてしまった。

『…やってしまった…』
『なんてコトするのよ! あたしは暗いトコロはニガテなんだってば!』
『い、いや…暗くしたら、あの殺し屋の“目”を奪えるのではと』
『あたしの“イノチ”が奪われちゃったじゃない! 銃が使えなくても他の武器持ってたし!』

(ほかに方法がないか、もう一度、考えてみるか…)

ジーゴの言うとおり、リンネに“死”が届けられ。シセルは《4分前》のはじめに戻る羽目になった。

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2012.10.21