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ツヅキカラ〜最終章〜

ゴミ捨て場の管理人室は動かせるものがあまりにも少なかった。
あれこれ試している間に、またもリンネの“死亡時刻”が刻々と迫ってくる。

『ま、また時間が来ちゃう! どうにかして! でも明かりは消さないで!』
『本当にムチャを言ってくれるな!』
(たしかにまずい…だが、今《アヤツル》ことのできるモノでは…!)
『そこをなんとか! あたしのアレを使うとか!』
だが、この状況で。ペンライトを点けたり消したりしても、ヤカンのフタの開け閉めよりも役に立ちそうにない。
『ダメだ、ライトではどうにもならない…』
一応操ってみたものの、小さな明かりの点滅などジーゴは気にもとめない。
相変わらず入り口付近でピストルを構えている。

『…いや。この…光景。…どこかで』
ピストルを構える、その姿。シセルは見覚えがあった。
『…コイツは…。そうか!』
瞬間、シセルの顔つきが変わった。そして。
ペンライトから、電話へ。電気スタンドへ。迷いなく次々と移動していく。

『よしッ…! これでどうだッ!』

その、一言とともに。
電気スタンドがくるりと回転し、勢いよくジーゴの手に当たる。はずみでピストルは弾かれ、彼の足元に落ちた。

「…なんだ!?」
『見よう見まねだったが。なんとか…うまくいった、な』
かつて“赤いオトコ”がやってみせた《アヤツル》方法。
命を奪う動きだったそれは、命を守る動きとして、今。《更新》されたのだ。

「…ちっ…」
殺し屋は落ちたピストルに手を伸ばそうとする。まだリンネの危険は去ってはいない。
『シセル、銃にとりついて! 一発撃って!』
すかさずリンネが“次の一手”の声を上げる。また拾われてはたまらない。
『だ。だが…』
『大丈夫。この角度なら、あたしに…それからアイツにも、弾は当たらないから!』
『…わかった、ならば…!』

リンネの言うとおりにシセルはピストルを《アヤツル》。
弾が“ひとりでに”撃ちだされ、ピストル本体はその反動で回転しながら床を滑っていった。

「…ちっ。暴発か。もう少し…手入れをしておくんだったな」
普段とは勝手の違う得物に毒づくジーゴ。
「…だが。どんなエモノでも…オレが届けるものは変わらない。アンタの“死”だ」
殺し屋は懐から、ギラつくナイフを取り出した。先ほど暗闇でリンネを殺した時の凶器だろう。
『…今度こそ手詰まりなのか…?』
シセルがとりついているピストルは、ちょうど、部屋の真ん中。いくら“手”を伸ばしても届くところに《コア》はない。

『ダメだ…もう、どうしようもない!』
シセルが歯噛みし、《4分前》をまき戻しかけたその時。

「せっかくのチャンスを逃してたまるもんですか!」

生きているほうのリンネが動いた。
近づいてきたジーゴに向かってキャスターを蹴り飛ばし、自身も戦う構えを見せる。
電気スタンドやピストルの動きで、彼女はシセルの助けに気づいているようだ。

『…いいトコロに来てくれた。コイツを使えば…!』
移動してきたキャスターにシセルも《トリツク》。

『イノチがけで戦う“相棒”をダマって見ているだけというのは…』

 ――この、私の主義に反する。

シセルの強い意思が宿ったキャスターは、ジーゴにしたたかに激突した。
生者と死者の見事な連携により殺し屋はなすすべもなく。ふたたび《死》の運命は更新されることになる。



リンネの《死》が消え去った《現在》では。女刑事と幽霊が、警察を待っていた。

『じゃあ…この“ハコ”が機密情報ってヤツ?』
『そうらしい』
待っている間、シセルは機密情報について聞いてきたことをリンネに伝えていた。
拘束されたジーゴが足元に転がっているが、“タマシイ”の会話は聞かれることはない。

『応援が来たら。情報が消える前に“ハコ”を持っていってもらえばいいワケね』
『ああ…。行き先は…ジョード刑事が知ってるハズだ』
『…早くダレか来ないかな。気ばかりアセって仕方ないわ』

女刑事はチラチラと、窓の外を気にする。応援の到着が待ちきれない様子だ。

『しかし…私が来る前といい、来てからといい、ずいぶんがんばっていたな。キミは』
『まあね。4分間突っ立ってるだけじゃ刑事の名が泣くってモノよ!』
顔に擦り傷を作ったリンネが胸を張る。傷はジーゴとのもみあいでできたものだ。
『それに、シセルがゼッタイ来てくれるって。信じてたから。あたし』
満面の笑みを浮かべるリンネ。本当に彼女は一片の疑いもなくシセルを信じていたのだろう。

『…あれ、シセル…?』

ふと、リンネはシセルの“タマシイ”の姿をまじまじと見つめてきた。

『……? どうかしたか…?』
『…ううん。シセルのこんなに嬉しそうなカオ…初めて見たから』
(私の、カオ…?)

『さては…このあたしのカツヤクが、よっぽどうれしかった…とか!』
『…まあ…そんなトコロだ』
晴れ晴れとした笑顔――それは、今夜。彼が覚えたばかりの“カオ”だった。

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2012.10.21