前衛は、フレイム、ジン、トリガ、ジル。
後衛には、タックとヒー。
……前衛は足りている。
足りないものは後衛、だろうか。
フラックあたりと戦った時だったか、うっかり前衛がジンだけになったことも聞いたけど。
魔法使いだって片方だけの時は厳しい。
強敵がいる階層では下手に雑魚を残したら全滅しかねない。
「やっぱりダメだ……」
魔法剣士から別のものになった時のシミュレーション。
決めたはずなのに、こうして歩いてるとどうしても考えてしまう。
「何になっても、何か足りない気がするんだよね」
考えるほどに、頼りなくても結構役に立ってた魔法剣士の自分がいた。
こんな時にそれに気づくなんて。
……こんな時だからだろうか。
『頼りない。ってのは、誰かを頼ることが出来るということだ。もっと周りの奴を頼ってみたらどうだ?』
魔法剣士の力不足を気にするリコルに、イストはこんな助言を残していった。
タックも、似たようなことを言っていたっけ。
「自分ひとりで戦っているんじゃないんだから、か……」
砲台と呼ばれる魔法使いだって狙撃や白兵に助けられている。
なら私はこの非力さを助けてもらえばいい。
手数の多さが魔法剣士の強みなのだから。
「魔法剣士じゃない私なんて想像つかないし」
以前の自分を知らない人に僧侶だったと言っても決して信じてもらえない。
その頃からずっと一緒の仲間たちでさえ、そのことを忘れているぐらいだ。
リコル自身、最初から魔法剣士であったかのような錯覚すら覚える。
「せっかく決めたんだもの……先の事、考えよ」
あんな話を聞いた後だというのに、不思議と落ち着いている。
気分は決して明るくはないけど。
「とりあえず、明日はムスカのところに行ってー……」
それから今日中にもうひとつ。
「テオ、いるー?」
日が暮れかけた頃、思いもよらない声がテオの部屋に響いた。
まさか今日、姉さんが来るとは思わなかったな……
そう思いつつ扉を開けると、いつもどおりの姉がいた。
イストと話してきた割には落ち込んでる様子はあまりない。
「テオ、これ!」
「……MPポーション?」
「いい、戦闘が終わったらイストに《快癒》かけること! 絶対ね!」
「あ、うん、わかった」
こんなことを言ってくる以上、全部知ったはずだ。
……平気なわけ、ないよな。
視線を落とせばいつもどおりの鮮やかな赤い槍が目に入ってくる。
その槍――ドラグニルについて、今日の話で姉がどう感じたか気になったが、踏み込んでいいものかどうか躊躇するテオ。
「効くかどうかわかんないけど、気持ちの問題でね。じゃあよろしく」
切り出せずにいるうちに、ポーションだけ手渡して姉は宿から出て行ってしまう。
「とりあえず、思ったより沈んでなくてよかった……」
落ち込むより先に、なんとかするために動くことにしたのかもな。
俺も明日あたりジンにもう一度何か聞いてみるか。
自分も何か手がかりを探そう、そんなことを考えながら姉の後姿を見送るテオ。
槍の石突付近で青い何かが揺れていたが、特に気にはしなかった。
2008.01.24