ドラゴン。
こいつらの激しいブレスに何度全滅しかけたかわからない。
それは時に魔族の唱える呪文よりも恐ろしい。
冒険者としての実力を十分身につけた今も、このモンスターの力は脅威だ。
「……今日は、スケイルベインがある」
だから……最初の息さえ凌げれば、後は全力で叩き潰せばいい。
『聖なる鎧』の加護で灼熱の炎に抵抗し、目の前の竜を斬りつける。
固い鱗を切り裂く手ごたえ。騎士は勝利を確信し、竜は断末魔を上げる。
「……いやあああああっ!!」
竜じゃない――人間の、女の悲鳴。
騎士がよく知る人間の。
「姉……さん」
倒れていく姉に手を伸ばす騎士。
だが、騎士の手が触れた彼女の身体は――
「―――っ!?」
身体がよろめいて、椅子から転げ落ちそうになるテオ。
リコルを寝かせてからずっとついていた彼だが、居眠りをしてしまっていたようだ。
「……なんつー夢を……」
安堵と同時に、深くため息をつく。
胸の奥に溜まった嫌なものも同時に吐き出すように。
しかし、夢の記憶は薄れてはくれなかった。
感触まではっきりと覚えている。
……俺の手の中で、姉さんは、灰になって、崩れて……っ!
最初の事件、操られた侍が目の前で崩れ落ちてから引きずっている不安、恐怖。
そして今日、侍と同じになった姉に襲撃された時に感じた戦慄。
黒い槍に剣を振るいつつ、最悪の状況を思い浮かべては振り払って、否定して、打ち消して……。
そうやって心の奥底に追いやったものが、一気に夢として現れたのだろう。
「でも、もう助かったんだ」
声に出して、今また恐怖を振り払う。
そして彼女を寝かせてあるベッドに振り向いて――
――いない。
「姉さん!?」
ベッドには起き上がった跡がある。
隣の部屋に通じる扉のノブに手をかけ、回す。
「ダメ! 来ないで!」
今日、何度聞いたかわからない拒絶の声。
チョウとか言う女に、黒い槍に操られていた時と同じ。
「姉さん、何が――!」
騎士が部屋に入った瞬間、何かがぶつかってきた。
2008.03.11