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悪夢の続き 〜3〜

「ああ、その噂なら、私も聞いたことある。最初ジンかなーとか思ったっけ」
「俺は女のほうを最初姉さんかジーナかと思ったよ、あとセニア」
そんな心当たりのある知り合いがいる二人。
ジルも相当危ないが、一緒にいても黙ってることが多いために危険人物としての認識は他より薄かった。

二人が話題に上げているのは以前酒場で噂に上ったことのある女のこと。
夜中に歩き回り、声をかけた男を刺し殺すのだという。
「その女が姉さんが会った奴だと思う。ジンはチョウと呼んでいたけど」
「ただの噂じゃなかった、ってことね。そっちもやっぱり刺されたの?」
「いや……」

もっと悪い。そう前置きをして、テオがその時の事を説明した。
「操られていた侍は【竜の力】を無理やり宿らされていたんだ。力に耐え切れなかったんだろうな、戦闘後は死体も残らなかったよ……」
今も思い出すだけで寒気がするその侍の最期を口に出すテオ。
リコルは黙ったままだ。
何も言わず不安げに胸の上に手を当てている。
『ドラグニルはあの仮面とは違う』
弟はそう言ってしまいたかった。
あの仮面は【竜の力】を人が使えるように造られたドラグニルではなかったのだから。と。
今日のことがなかったら気休めだとわかっていても口に出していただろう。

「……同じことが、今日あったんだ。姉さんが、刺されてから」
黒く変色した槍を持ち、現れた。
侍の時と同じように操られ、その槍を繰り出してきた。
テオがやや早口で、ひと息に話す。
一度でも言葉を途切れさせてしまったら、そこで止まってしまいそうだった。
「槍に攻撃して、力を弱めたんだ。まだ完全に操られていないからって、ジンが教えてくれた」
「それで、どうなった……の?」
「ほんの一瞬だけ『姉さん』の意識が戻って、槍を手放してくれた。操られるのは止まったけど、それでもまだ取り憑かれたままで」
ここでテオが一旦言葉を切り、姉に目を移す。
リコルはうつむいてしまってその表情をうかがうことはできない。
しかしその胸中は容易に推測できた。
先ほど彼女が胸に寄せた手が固く握り締められている。着替えたばかりの赤い布地ごと。
その奥から湧き上がるものを押しとどめているかのように。

「大丈……」
「いい。続けて」

大丈夫か、という言葉を硬い声がさえぎった。
「わかった」
どっちみち全部話さなきゃならないもんな。
テオは心でそうつぶやき、リコルがここで目覚めるまであったことを話し始めた……。


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2008.04.24