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悪夢の続き 〜2〜

騎士の顔面に飛び込んできたそれは、小さい、白い生き物。
「ああああっ!! ごめん!」
「姉さ……」
「ごめん、イグニス!! 思わず投げちゃった!」

……そっちか。
使い魔のほうに詫びる姉の声。
お前も苦労してるんだな、と白いコウモリを顔から剥がしながら騎士は同情した。
もう、先ほどまでの嫌な不安はかき消えている。
いつもはこのペースに振り回されているが、今はとてもありがたい。

「とりあえずテオあっち向いててよ」
「……はいはい。着替え中?」
たわいもないやりとり。
弟は取り返した日常をかみしめる。
「それもだけど……傷口をね。あ、着替えなんて気がきいてるじゃない。すごい助かった」
ブレイズが娘の土産にと用意しておいたものだったらしい。
返さなくてもいい、とは言っていたが何かで埋め合わせを……とテオの思考が横道に
それたが、すぐに先ほどの戦いに意識を戻した。
魔法に巻き込まれた時の傷なら、すぐに治癒の呪文で治したはずだ。
「やっぱり、どこにも跡がない。きれいに治って……あんたが術をかけてくれたの?」
「……? そう、だけど」
「そっか、ありがと。偶然にしてもよく通りがかったものねー、あんな朝っぱらに」
「いや、姉さんのほうから……」
いまいち話が見えない。
「私、倒れてたと思うけど?」
「それと、変な女見なかった? 黒い……槍を持った」
「変な……って」
着替え終わったリコルに使い魔を返しながら、かみ合わない会話に困惑するテオ。

倒れてた? あの時倒れてたのはジンのほうだ。
そして黒い槍を持っていたのは――

「妙ないいがかりをつけてきたと思ったら、急にこのあたりを刺してきたんだよね、あの女」
リコルがわき腹のあたりをさすりながら、その声に怒気をはらませる。
「あれね、一瞬しか見えなかったけど絶対ドラグニルよ、間違いない」
姉の言うことだ。ドラグニルに違いないだろう。
だがそれを持って現れたのは他ならぬ彼女自身だった。
そして、持たせたのは……ジンが確か、チョウと呼んでいた、女。

「姉さん。その、刺されてからのこと、覚えてるか……?」
十中八九、その女はチョウに間違いない。
話から見て、刺されてから操られたのだろう。……その間の、記憶は?
「ん? 意識がなくなって、目が覚めたらここで……それだけ」
リコルは自分が刺されてすぐに助けられ、この宿に運ばれたのだと認識しているようだった。
「気絶してる間、あー…っと、なんか夢とか、見てた?」
口から出る言葉が妙に重い。
最初にチョウと遭遇して、姉さんのところに様子を見に行った時丁度同じ感じだったな……
「よく覚えてないけど、嫌な感じの夢みたいなものは見てたかな……」
「何かが、無性に怖かったような、そんなかんじの」
手の中の白いコウモリをふわふわとなでながら、うなされてたんだろうかとリコルが首をひねる。
それならばどれだけよかったか。
彼女の様子を見ながらテオがため息をひとつついた。

「姉さん。多分、そいつを俺は知ってる。最初に遭遇したのはこの間の夜なんだ……」


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2008.04.03