TOPへメニューへ


赤い闇の夜に 〜1〜

『ドラグニル』
【竜の力】を得ることができる槍。魔法剣士専用武器。

攻撃魔法を撃つと同時に武器も振るうことが出来る、そんな特殊な効果を持つアイテムだという程度の認識だった。
【竜の力】を人の身で扱うということの意味も、特に気にしてはいなかった。
目の前にあの侍が、現れるまでは――



少しぎこちなく騒いだ食事が終わり、セニアとタックが帰ってまもなくのこと。
イストがドラグニルについての話を切り出した。
知らぬところで調査をしていたらしい。
らしくないな、などと茶々を入れつつもシーマとテオが耳を傾ける。
「皆朱の槍、竜の牙、毒巨人の爪」
ドラグニルの合成材料。
「何故単なる槍に”毒巨人の爪”なんて物騒な物が必要なんだ?」
「竜の牙についても穂先に適した硬い素材。くらいにしか思ってなかったが、さっきの話で気になる点が出てきた」

「あたしも、その昔魔法剣士やろうか、って思ってた時期あったから、少しだけ知ってるけど…」
「この地でドラグニルを初めて創ったのは、カスパールっていう魔法剣士らしいわね」
どこから調べたのか、シーマも続ける。
「200年前…黒竜王を滅ぼすために鍛えられた魔剣スケイルベインそれと同時に、ドラグニルも造られた」
ドラグニルを持たない状態では十分に戦えない魔法剣士と、その道を意識したことのある怪盗はさすがに詳しい。
それを聞いている騎士の姉もまた魔法剣士。
ドラグニルの重要性は身にしみて理解していた。
別の意味で。

「この地ってことは、ジンのところとは、また事情が違うみたいだな」
「ああ。なにかしらの関連は有るのだろうがな」
ジンから得られた情報はわずかなものだったが、あの仮面が忌まわしいものだということだけははっきりとわかる。
それと関連するとなると、ろくな話ではないのだろうが。

「今言えるのは、ドラグニルは竜を呼び寄せる。ってことだ」
「竜を呼び寄せる? 根拠あるの?」
シーマにその根拠を問われなおも説明が続く。
普段物静かなイストがワインのせいかいつもより口数が多い。
「俺がドラグニルを持つようになって、つまりは魔法剣士になってからだが、ドラゴン系のモンスターとの遭遇率が段違いになっている」
「ダンジョンの行き止まりの玄室などでは、特に顕著だな」
「単に、運が悪いんだとばかり思ってたわ。テオの」
「俺だけじゃないはずだ、絶対……いや、多分……」
行き止まりでモンスターの大群に出会うというのは冒険者の間ではそう珍しくないアクシデント。
時に笑い話にもなるその現象にドラグニルが作用しているとは。

「迷宮の深いところに、ドラゴンゾンビがいるだろう?」
「アレを作っている『死霊魔術』に、体の一部を媒介にする。という方法があるらしい」
シーマにからかわれて落ち込むテオをよそに仮説が組み立てられていく。
「竜の牙を媒介にして、ドラゴンの魂…、いや怨念、と言うべきか、それをドラグニルに溜め込んでいるのではないかと思う」
「竜の力って…怨念が源ってわけ?」
「恐らくは、それがエネルギー源となっているんだろう」
「ジンの言う仮面は『怨念を伝える触媒』、こっちはこっちで『怨念を溜め込んで使う武器』かよ」
テオがため息とともに吐き出す。
竜に関わる話には『怨念』という単語が付きまとわずにいられないのか。
「これでもまだ半分くらいだ」
その怨念にもっとも近い位置にいる、魔法剣士本人の顔は涼しいままだ。
もともと感情を表に出す人物ではないのだが。



そして酒場の喧騒も落ち着いてきた頃、残る半分が語られ始めた――




【1】【2】【3】【4】

TOPへメニューへ

2007.10.08