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赤い闇の夜に 〜4〜

「……はー、テオもいつまでも悪のサーベル使ってちゃダメなんじゃないの?」
戦闘の模様をひとしきり聞き、リコルはため息をついた。
テオの剣が敵に通らなかったことに対してだ。

「そろそろボーパルあたりじゃないと」
そう言ってリコルが連想したのは武器を何本も背負い、敵に合わせて使っている侍、ジンだった。

「俺もさすがにそう思う。スケイルベインとか、欲しいんだ」
これからジンを狙ってくるかもしれない【竜の力】相手に必要だろう。
テオもまた、同じ人物を連想していた。
その理由は姉とは違っていたけれど。
「ちょっと気味悪いけどしょうがないか……」
「気味悪いって、なにが?」
……しまった。
テオに冷や汗が流れる。ドラグニルまでは話が到達していないのがまだ救いだ。
スケイルベインやドラグソードの由来までは、まだ、大丈夫だよ、な。
多分大丈夫なはずだ。シーマの話をひとつずつ思い出して確認する。

「昔、ドラゴンたちは力を保つために同族争いをずっと続けてたらしいんだよ」
「で、スケイルベインが竜に効くのは、その竜の牙を使ってるから、らしい」
その武器が【竜の力】に対して有効な理由だけを、よりわけて説明する。
火竜の牙を材料としているスケイルベイン。
ドラゴン系のモンスターにそれを振るう時、牙に宿る同族への敵意がより剣を研ぎ澄ませることを話した。
意図的に【竜の力】ではなく『ドラゴン』という表現を使って。

「確証はないけど、シーマがそういう伝承に詳しくてさ、今日話してるうちにそんな結論が出た」
「それで材料に火竜の牙なんて使うんだ。なるほどね」
「あれを持つとドラゴンに強くなるけど、その代わり遭遇率が上がるみたいなんだよな。ただでさえダンジョンでよくコンボにぶち当たるのに……」
「わかるそれ……」
姉弟でため息。
コンボはテオだけでなく、リコルも散々身に覚えがあった。
そういうところはこの二人、よく似ている。
「竜……同族と戦う機会が増える効果でもあるのかな、牙に」
「さあ。でも、なんか『強力だけど呪いのアイテム』って感じで怖いよな」
言って、その意味に気づき、ぎくりとした。
まさにドラグニルのことじゃないか……。
攻撃力が多少上がる程度なら、スケイルベインだけでなく他の武器にもついている。
しかしドラグニルだけはそれらのどれとも違う。
【竜の力】という人間がもち得ない力を与え、そして――

「テオ?」

いつの間にかリコルが横に立ち、弟の顔を覗き込んでいた。
「あ……うん、ごめん。ちょっと、考え事」
「ふーん……なんっかさっきからおかしくない?」
自分と同じ、はしばみ色の瞳がいぶかしげな視線を送ってくる。
「よっぽど気になることでもあるの? さっきから話が途中で切れてばっかで」
なんでもないと言ってごまかせる雰囲気じゃない。長年の経験から弟はわかっていた。
何か、何かこの窮地から切り抜けられるものはないのか。

…………あった。
「あ、あの、イストが『明後日くらいに、将来について重要な話があるから、時間を取ってくれないか』って姉さんに!!」
…………言った。

「ちょっとなによそれ本当に!? イストが!?」
こうかはてきめんだ!
弟の様子がおかしかったことなど意識の彼方だろう。
「本当本当、今日それで来たんだって」
……助け舟をありがとう。この場にいない魔法剣士に感謝。
テオが顔に全部出ることをわかった上で、そしてその言葉の効力をわかった上でこの伝言だったのかどうかは、闇の中だが。

「どうしよう、あーもーホントにどうしよう!!」
テーブルに突っ伏してうめきだすリコル。
あ。なんか動きが止まった。
「ね……姉さん?」
まだ動かない。
そうだ。これって……。
「……《快癒》」
ほとんどの状態異常を治療する呪文。
「……何いきなり呪文かけてんの……」
いきなりかけた《快癒》への反応はあった。
「いや、姉さんが動かなくなったんで、麻痺か石化でもしたかと回復を……」
「してない! ちょっと動揺しただけだってば!」
麻痺、石化と口にしたのは《快癒》をかけるため。
ドラグニルに含まれる毒に対して使ったことを悟られないように。
効果の狭い《解毒》じゃ、怪しまれるかもしれないからな……。顔に出やすい彼が精一杯作った口実だった。

「とにかく、伝えたからな」
これ以上ここにいたらまた何か怪しまれる気がする。
ひとまずは安心したし、伝えることも伝えた。これで帰ろう。


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2007.12.22