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ひと目会ったその日から 〜1〜

「あ、リコルさん。どうしたの?」
「こんなところに何か用でもあるんですか」
武器屋から出てまっすぐ酒場に直行したリコルを、知り合い二人が出迎えた。

「なんか、珍しい組み合わせね……」
タックとフレイムという、共通点の見当たらない異色な組み合わせだった。
「トリガもいましたよ? 用事を思い出したとかで帰りましたが」
「ししょーとはここに来る前からはぐれたし」
ついでにジンの姿も見当たらないが。大方『セニア』の姿でも探しに行っているのだろう。

「残った二人ってわけね……あ、ねえ、魔法剣士っぽい人って見なかった?」
ここに来た目的を思い出し、二人に尋ねるリコル。
「うーん。見た目だけじゃ、わかんないね」
「そんな物好きな人がそうそういるわけないと思いますが」
こういう時にもツッコミを欠かさない戦士に『うっさい』と一言返し、リコルは改めて目印を説明する。
「槍をね、持ってるの。多分ドラグニル。今日じゃなくても、最近でもいいんだけど」
「ごめんね、やっぱりわかんないや」
「同じく。大体魔法剣士な上にドラグニルまで持ってる人間が何人いるやら」
ダメか、とリコルが大きくため息を吐いた。

「そうだよね……簡単に見つかったら苦労しないよね。あーあ、そんな人がいたら弟子入りしたいよー、タックみたいに」
「リコルさん……槍持ってる人ならなんでもいいの?」
「どこかの人間か物体かわからないようなのだったらどうするんですか」
フレイムの言葉は暗にタックの師匠のことを指していたが、目の前にいるタック本人はそれと気がつかない。
「だって、魔法剣士でドラグニル持ってるってだけで、すごいことだもん」
さきほどフレイムも言ったように、魔法剣士というだけでかなり珍しいのだ。専用装備の材料を揃えられるようなレベルとなると、更に少ない。
「まあ、わからなくもないですがね」
フレイムもまた、強力なアイテムの入手をこの冒険の目標としている。
ドラグニルよりもはるかに条件が厳しいその武器をいずれ手に入れるのだと、度々仲間の前で口にしていた。
その理由まで話すことはなかったが。



「他に誰か知ってるような人いないかな」
テーブルについて足を組みつつ、なんとなく辺りを見回すリコル。
先ほど注文した紅茶を口に運びながら冒険者らしい客を探す。
「リコルさん、あの人たちがなんか魔法剣士の話をしてるみたい」
「え、どこどこ――」


「よう、無事魔法剣士になってきたか!」
「とにかく席につけよ、パーッと祝おうぜ」
そこにはパーティの仲間らしい数人に次々に祝われる男がいた。
どうやら魔法剣士になったばかりらしい。
レベルアップや転職を済ませた仲間への祝福はよくある風景なのだが、妙に雰囲気が軽い。
「へへ、だけどよ、レベル1に戻っちまった。明日あたり一層あたりでレベル上げないとな」


「……んー、なんか、ドラグニル持ってるって雰囲気じゃないね」
仲間が増えたのは嬉しいけど、とつけたしてリコルは当てが外れたことを惜しむ。
「仲間って、まだ魔法剣士になってもいない人が何を……」
「いいの、近いうちに絶対なるんだから!」
「リコルさん、ドラグニルも作らないうちに、なっちゃうの?」
戦士としても魔法使いとしても中途半端な魔法剣士が、相応の力を発揮するために必要なのがドラグニルなのだ。
「今と同じ戦い方する分には変わらないし、大丈夫。魔法剣士っぽい活躍がすぐ出来ないのは、確かに残念、かな」
魔法剣士のもうひとつの特性である《エレメントフォース》ならドラグニルがなくても使えるが、ごく限られた場面でしかそのチャンスはないだろう。
「そっかー。今の人も持たずに頑張るみたいだしね、大変だ」
「あちらのはドラグニルがない深刻さをわかってる風ではなさそうですがね」
「そんなことないって。魔法剣士になるなら当然知ってるでしょ」
魔法剣士はまず、ドラグニルありき。
伝説の偉人カスパールについてリコルが熱く語りはじめる。
「最初に【竜の力】を込めた槍をね、槍をー」

その伝説の人への心酔ぶりは、魔法剣士に恩恵を与えた人物だからか、ドラグニルの製作者だからなのか。

「これが始まると長いですからね……。うちの『僧侶』は」
「そだね……」
ジンが『セニア』のことを語るときとよく似てる。
そしてその時と同じように、二人とも話を聞き流しながら適当に相槌を打つのだった。


【序章】【1】【2】【3】【4】【5】

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2007.03.14