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ひと目会ったその日から 〜2〜

その日、冒険者たちはいつもより深い階層に潜り、かなりの収穫を得て戻ってきた。

「ふむ。胸当てが手に入って防御力が上がったな」
「私はあと2000貯めて身かわし目指します」
女戦士と精霊使いがこの先の守りを固める会話をしている。
「僕もう8Gしか持ってないや。さっき万能薬買ったから」
魔法使いは薬品類を揃えたらしい。
「レベルアップして防御呪文覚えましたよ。《火事場泥棒》」
それは違う。と全員が突っ込んだ。



上級職の予定が話題にのぼる。そろそろ手が届く頃でもあった。
「私、あと何回かで侍になれますかね……」
「僕は魔導師かな。スペルエキスパートはかなりすごいと思うんだ!」
「騎士か侍になろうかと思っているが」
「私は侍か怪盗でしょうか」
「ドラグニルはどんな感じの武器になるんだろう……色とか」

一人、予定どころか色々飛び越えて『なってから』の専用武器に既に思いをはせている者がいたが。

「その人の属性によって色が決まるんだ。ってイスト様は言ってましたよ」
いつもならば流されるか、呆れられるだけのその話に珍しく乗ってきたのはトリガ。
盗賊らしからぬ穏やかな微笑を浮かべながら少し誇らしげに話してきた。
トリガの上司であるイストは魔法剣士。ドラグニルも取得済みだ。
「属性かぁ……。そういえば、この前豪華な槍装備した人見かけたんだよねー。思わずタックのように弟子入りするところだったかも」
この間のことを思い出してリコルがぼやく。
「……槍持ってるだけで、良い人判定なんですか?」
トリガもこれにはさすがに汗を垂らした。
顔は柔らかな笑みをうかべたままだが。

「魔法剣士だと思う、トリガの言う、『いすと』って人かも?」
「あ、や、イスト様は良い人ですよ。ハイ」
表情を変えることなく肯定するトリガ。
「うちの弟と、すこし悲しい意気投合の仕方をしてた人、らしいけど……」
あと魔法剣士で。
トリガが時々口にすることしか、リコルは知らない。
「私もここに来てからは文書だけのやりとりですから……」
「そっか、じゃあ、トリガもわかんないよね」
この前武器屋のある通りを蒼い槍を持って通りすがったのか、などというのは。
「その人が『イスト』かどうかわかんないけど一度会ってみたいな。……この街に来ていまだに魔法剣士って見たことないんだもん……」
しかしリコルどころか、トリガも今は直接会うことは出来ない。トリガは現在、最終試験中なのだ。

「よし、テオに聞いてこよう」
運よく弟が関係者だ。同じパーティのメンバーなら今の装備も知ってるはず。

「……もーちょっと強くなってから会いたかったけど」
ダンジョン日報を見る限りでは弟は『ザトンのダンジョン』を踏破するまでになっているようだ。
姉にはそんな弟の姿など想像もつかなかったが。
『もしかしたら別人じゃないのか』と今も半信半疑でいるぐらいに。
「実際のテオがどうあれ、せめて、私が魔法剣士になるぐらいまでは、って思ってたんだよね」
目標としているものになってからにしたかった。

しかし、今は変な意地よりも優先するものがある。


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2007.05.02