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ひと目会ったその日から 〜序章〜

「……足りない」
その日、一人の冒険者がある武器の前で深刻な顔をしていた。
「あーあ……あともう一回ぐらいで、買えるといいけど」
彼女が見つめてるのは鋭い刃のついた、銀色の槍。
いつまでもただのメイスでは心もとないため、今よりも一段階上質な武器を物色しているのだ。
所持金が足りないために今は手は出せないが。
「何よりも綺麗だし、いいよね、槍」
本音のほうは出た。

あれこれ手にとって見ていると、武器屋の窓越しに気になる人物が見えた。
遠りすぎていく『それ』に、慌てて物色していた槍を元の場所に戻し、通りに飛び出す。

「あれ……なんで? いない」

見通しのいい広い通りには、先ほど見た人物は影も形もない。人ごみにまぎれたのだろうか。
「うーん……いくら人がいてもあれを見落とすわけないのに」
第一、ついさっきここを通って行ったばかりだ。
相手が走っていたとしても視界の中に全然入らないというのはおかしい。

「同じ冒険者だよね。魔法使いかな、移動用の呪文とか」
仲間が《飛行》や《瞬間移動》を使っていたのを思い出す。
しかし魔法使いは通常、魔力増幅のための杖を持っているはず。
「装備があれだったし。槍」
しかもすっごい素敵な。
「あんなの、どの武器屋でも見たことないもの、相当のレアアイテムだよ」
もしかしたらあれはドラグニルで、あの人は魔法剣士なのかもしれない。


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2007.03.14