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おまつりの日【4】

「あ、イリス姉ちゃん、遅かったな」
荷物を置いて戻ってきたイリスに、ゼファーが声をかけた。
頭に布をデタラメに巻いている。

「ずっと待ってたの? お店、見てたらよかったのに」
「ん、もう見てきた。わりい、あの金せっかく貰ったのにもう全部使っちまった」
「え……全部? もう?」
ゼファーの言葉に、イリスは驚く。
このあたりはバザーと屋台ばかり。先ほどの金額を使い切るには相当買うか、遊ぶかしなくてはならないだろう。
しかしゼファーは手ぶら。遊ぶ時間もそれほどなかったはずだ。

「どこのお店?」
「んー、ん」
ゼファーが指さした先は、彼が気まずいと言っていた果物屋。
「え……あそこで全部?」
「んー、まあ、ちょっとな……あ、そんなことよりもさ、早くリズが教えてくれたとこに行こうぜ!」
ゼファーは大声で話題を変え、走っていった。

何も持っていないゼファー、彼が悪さしていた果物屋、そしてほどけたターバン。それらから推測されることは。
「今までの分、ってところかしら」
これまで取った分を弁償したのだ。誘惑の多い祭りの中、もらったばかりのお金をすべて使い切って。
「ゼファー、待って」
追いつこうと歩くイリスの足取りはいつもより軽かった。



二つ先の角――その場所には何軒か店が出されていた。
「あの姉ちゃん何屋かは言わなかったんだよなー、どれだかわかんねえ」
「困ったわね。一番肝心なとこなのに」
リズという娘はどこかそそっかしいところがあるようだ。

店をのぞき、リズの姿を探していたゼファーだが、香ばしい匂いにその足が止まる。
大きいソーセージをまるごと焼いている屋台。焦げ目がおいしそうだ。
ゼファーの目は釘付け。うまそう。食べたい。と思いっきり顔に書いてある。

「あの、2本ください。一本はマスタード抜きで」

いつの間にか、ゼファーの手に串にささったソーセージが一本収まっていた。もちろん辛くないほう。
「……いいの?」
小遣い全部使い切ったのに、とイリスを見上げるゼファー。
「いいの。今日しか食べられないから特別よ」
「サンキュー、イリス姉ちゃん!」

「あと、すみません。赤い帽子の女の子がこのあたりでお店やってるみたいなんだけど、わかります?」
イリスは買い物ついでにリズのことをたずねてみる。
「ああ、その子ならもう店を片付けていったよ。ふうせん屋だったかな。あっという間に売れてねえ」
「すげー、あの姉ちゃんがふうせん屋だったのか! 俺、あれ欲しかったんだよな!」
横で聞いていたゼファーが悔しがる。イリスもまた残念そうだ。

「うーん、しょーがねえよな。次見に行くか、次。俺、あれも気になってたんだ」
ゼファーが指を指したのは、大道芸の一団。
沢山のボールや棍棒をを器用に投げては受け取る芸や、積みあげたレンガを頭や拳で割る者など、遠目から見ても楽しそうだった。



大道芸はその後大きな盛り上がりを見せ、終わってからも歓声と拍手に包まれていた。
ゼファーとイリスも心地よい興奮と余韻でいっぱいだった。
「最後のアレ、すごかったよなー」
「そうよね、あんな小さい的なのに」
二人が話しているのは大道芸の山場、弓矢を持った男が女の子の頭に乗ったリンゴだけを撃ち抜いた場面のこと。

「俺も本気を出せばあれぐらいできるけどな。お……?」
ゼファーが見つけたのは、射的の看板。大道芸のちょうど隣にある。
「うーん、これはある意味商売上手なのかしら」
イリスが商人らしい一言をもらし、ゼファーに射的の説明をした。

「へー……真ん中に当てれば一番いいもんもらえるのか」
射的は一回の挑戦で三本弓を撃てる。一等の賞品は、木彫りのオルゴールだ。
「……イリス姉ちゃん、ああいうの好きだろ。やらせてくれたら俺が取ってやるよ」
「いいけど、難しいわよ?」
「大丈夫だって」
当たっても外れても挑戦は三回までという話に落ち着き、ゼファーは最初の矢をつがえて的に狙いを定めた。


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2009.06.19