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おまつりの日【7】

「じゃあな、オッサン。もう悪さするなよ!」

衛兵たちに連行されるスリの後姿に向かってゼファーが言う。
男はその言葉にまた顔を赤くしているだろう。言った本人にはまったく悪気はないのだが。

「それから二人とも助けてくれてありがとな!」
後ろに立っていたリズとウィンに向き直り、ゼファーはやや興奮気味に礼を言った。
さきほど危なかったゼファーを助けたのはこの二人。
ゼファーに気を取られているスリに向かってウィンが矢を撃ちこみ、同時にリズが魔法で眠らせたのだ。

「すげえかっこよかった!」
目を輝かせる少年に、リズは照れたように笑い、ウィンはあごをなでる。
「さっきの弓って射的のやつだろ? 俺も借りてきてればよかった」
「あー、待て。あの矢はハンカチ巻いてあってだな」
ウィンが困った顔で興奮したゼファーをなだめる。
撃った矢はだいぶ殺傷力を落としたものだと、すぐにでも真似をしそうな少年に釘を刺した。

「あれ? 二人ともどこで知り合ったの?」
店にはゼファーは来ていないはずと、リズが首をかしげる。
「オッサンとは射的で会ったんだよ」
「ああ、じゃあやっぱりあんた、店には来てないのね。それにしても……野伏が射的荒らし? かっこわるー」
「うっせえ。お前がいつまでも戻ってこねぇから暇だったんだよ、しかも荷物全部人に持たせやがって」
リズにじと目で見つめられ、ウィンも口をとがらせる。
「大体、薬まで俺に持たせるからスリにも逃げられるんだっての」
二人の口げんかはとまらない。
「さっきまではかっこよかったんだけどなー」
ゼファーもさすがに呆れ顔だ。

そんな彼の後ろから、別の呆れたため息が聞こえてきた。
「ゼファー、探したわよ、もう。急にいなくなって……」
「あ……イリス姉ちゃん」
衛兵の出てきた道を逆にたどってここまで来たらしい。
「やっぱり追いかけていったのね。危ないんだからこういうことは大人に――」
「で、でもさ! ちゃんと捕まえたし、取り返したし……!」
説教に入りかかるイリスを、ゼファーはあわててさえぎった。
このまま彼女を怒らせたら明日はおやつ抜き。それだけは全力で避けなくてはならない。
「それにあのオッサンとリズが助けてくれたから大丈夫だって!」
「あの人たちが?」
「弓でばーんってやって魔法でどーんと眠らせてやっつけてた! すげーよな、魔法だぜ、魔法!」
先ほどの興奮が戻ったのか、次第にゼファーの声が大きくなっていく。
「それで、俺もダガー相手に戦って! ちょっとやばかったけどヤツの攻撃をかわしてったんだ!」
その場の再現のつもりだろう、大げさな動作で布切れを振り回す。

「――ゼファー、それ」

イリスの目が布切れの、切り裂かれた部分で止まった。
「あ、わりい、ダメにしちまっ……」
しまったという顔になったゼファーの頬にイリスの両手があてられた。

「ゼファー、わかってる? 本当に危なかったのよ?」
「う……」

イリスにまっすぐ見つめられ、少年は黙ってしまう。
「少し間違ってたら、ゼファーがこんな風になっていたかもしれない。もし何かあったら――相手を捕まえても、何を取り返しても、悲しいだけになってしまうわ」
そう言いながら、ゼファーの無事を確かめるように、イリスは彼を抱きしめた。
「……ごめん……イリス姉ちゃん」
ゼファーの目の高さにある彼女の肩が少し震えている。
「どこも怪我がなくて、本当によかった……」
真剣に謝るゼファーに、また少しイリスの腕に力がこもった。

「でも、明日はおやつ抜きね」
「ごめん! イリス姉ちゃん! ほんとにごめん! もう絶対しねえから! だって明日は確かドーナツって……ほんとごめん、おやつ抜きはカンベン!」

必死に謝るゼファーの様子に、横で見ていたリズとウィンが苦笑した。
「男としちゃあ、もうちょっと活躍を認めてもらいたいところだがねえ」
ドーナツに必死になってるあたり、やっぱり坊主≠セなとウィンはあごをなでる。
「はいはい、男のロマン男のロマン」
リズがその台詞を軽くあしらい、二人に声をかけた。

「ねえ! せっかく取り戻してもらったんだし、なんかお礼、させてよね?」


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2009.10.31